分子疫学研究室

セミナー

【平成22年度】疫学コース(10回)

目的
今年の趣旨:
 本コースも今回で10回目を迎えました。その間、臨床研究の手法にも変化がみられ、且我々も多くの経験を積みました。
 そこで、今までの内容を大幅に変えました。そのため、過去に参加された方でも楽しめると思います。もちろん、疫学の「いろは」から知りたい人でも学べるようになっています。

目的:
 臨床研究のデータを即解析できる人材を育成する
 感染症疫学を理解し、リスクコミュニケーションできる人材を育成する
日時
2010年5月14日(金)〜2010年7月16日(金)
全10回 19:00〜21:00
【終了しました】
場所
東京慈恵会医科大学
http://www.jikei.ac.jp/univ/access.html
大学1号館 4階講堂
http://www.jikei.ac.jp/univ/access_s.html
費用
36,000円
(大学生・大学院生は18,000円)
(慈恵医大医学部学生・大学院生は無料)
講師
浦島 充佳
(東京慈恵会医科大学 分子疫学研究室/[旧 臨床研究開発室])
対象
対象医療関係者、CRO、 製薬会社、医学・薬学系大学院生、保健所職員、自治体危機管理関係者
説明
使用統計ソフト: STATA http://www.stata.com/
※講堂備え付けのラップトップPCにはSTATAが導入されていますので、購入する必要はありません。しかし、講義を受講しただけですと、やがてSTATAの使い方を忘れてしまいます。そのため、少々値段がはりますが、My STATAを購入されることをお薦めします。この講義で触れる機能はSTATAの極一部であり、逆にこれ1つを使いこなせれば大概のことはできます。

★なるべくセミナースタートまでに読んでおいて下さい
【指定図書】
@ How to make クリニカルエビデンス(医学書院) 浦島 充佳 著
http://item.rakuten.co.jp/book/1674875/
A How to use クリニカルエビデンス(医学書院) 浦島 充佳 著
http://item.rakuten.co.jp/book/1694824/

★余力のある人は是非読んでみてください
【推薦図書】
B Epidemiology in Medicine, Charles H. Hennekens, Julie E. Buring, Sherry L. Mayrent. Little Brown and Company, Boston/Toronto
http://www.amazon.co.jp/Epidemiology-Medicine-Charles-H-Hennekens/dp/0316356360/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=english-books&qid=1237791047&sr=8-1

お申込み方法 → オンラインより、お申し込み下さい
(申込受付および請求のご案内は4月以降となります)

詳細

【1】Introduction  2010年5月14日
19:00〜21:00
@序論
 患者さん1人1人をていねいに診ることも大切ですが、疫学を使って、ある予防あるいは治療が大勢の人々にとって有効なのか否かを判断することも極めて重要です。そこで序論としては、ビタミンが発見される前に疫学研究を用いて栄養の偏りが脚気発症につながることを証明した、慈恵医大学祖・高木兼寛の話をいたします。そして、『私たちは何のために臨床研究を行うのか?』という臨床研究の原点について論じます。

A疫学の基礎
 1)交絡・偶然・バイアス:ある因子がある結果に関連することを議論するのに、「バイアス・交絡・偶然」の影響を否定できてはじめて結論できます。疫学の概念からはじまり、「バイアス・交絡・偶然」にはどのようなものがあるか、それぞれをどのように扱うべきかについてまで解説します。
 2)疾患頻度の数え方:後半、臨床研究のデザイン、特に「ケース・コントロール研究」、「コホート研究」、「ランダム化臨床試験」の概要を示すとともに、「リスク比・リスク差・オッズ比・95%信頼区間・標準化」について説明します。内容が盛りだくさんです。初心者の方は指定図書で予習しておいてください。
 3)カイ二乗検定とオッズ比についてスライドを使いながら、時々STATAを使いながら解説します。
 4)パナマとスウエーデンの死亡率を単純に比較すると、パナマの方がスウエーデンより死亡率が低いという結果を得ました。常識的に考えると矛盾します。そこで年齢により標準化してから比較してみましょう。STATAを使うと楽に解析できます。

Bバイオテロ
 コホート研究のリスク比を使って、バイオテロに使われた食品を当ててもらいます。シナリオを使って進めていきますが、何も怖い話をしようというのではなく、疫学チームと司法チームが共同で捜査をすすめると。。。。ということです。皆さんには、途中STATAを使って演習してもらいます。
【2】Controlled and uncontrolled clinical trial 2010年5月21日
19:00〜21:00
@2項分布と95%信頼区間の考え方

Aブリストル王立小児病院
 ブリストル王立小児病院では、心臓手術後の死亡率が高いのではないかと指摘を受けました。これが本当であるかどうか疫学的手法で検証していきたいと思います。

B臨床試験
 まずはphase III に用いられるランダム化比較試験について概説し、phase I、Phase II についても説明いたします。そして、臨床現場で時々行われるヒストリカルコントロール試験について、実際のデータに基づいてSTATAで解析します。
 Percutaneous Endoscopic Gastrostomy(PEG)は経口摂取が困難な患者さんに施行されますが、チューブ刺入部の感染症が問題となります。そこでチューブをビニールカバーで覆うようにしてみたら感染が激減したという話です。
【3】 2010年5月28日
19:00〜21:00
@ランダム化比較臨床試験のプロトコル作成
 「ビタミンDサプリメント(ステイタスD3Ⓡ)内服による小中学生を対象とした小児科外来におけるインフルエンザ発症予防のための多施設共同二重盲検ランダム化プラセボ比較試験」という具体例を交えながら解説します。

ASTATAを使って生存解析をしてみよう。
 前半スライド講義が中心のため、ちょっと手を動かしてみましょう。 多発性骨髄腫のデータをSTATAにペーストして「カプランマイヤー生存曲線」を描き、log-rank test、コックスハザードモデルを使ったハザード比を算出してもらいます。
 理論より先にデータ解析をしてもらうことにより、『統計解析って結構簡単なんだ!』ということを実感できるはずです。このセクションは、6月11日に行う生存解析への架け橋となります。

BSTATA演習
 健康診断のデータを使いながら、Student’s t-testからはじまり、メタボリック症候群になり易い生活習慣をlogistic regression model で解析してみましょう。
【4】 2010年6月4日
19:00〜21:00
@ランダム化比較臨床試験の統計解析
 ランダム化比較臨床試験のハイライトです。通常の解析に加えて、subgroup 解析の考え方、baseline characteristics で偏りを生じた際の補正の仕方、交絡や相互作用について、多施設共同研究で施設間差の検証、repeated measure、欠損値の扱い方などを具体的データを用いながらSTATAで解析します。
【5】Survival 2010年06月11日
19:00〜21:00
@食道がん生存解析
 生存解析はコホート研究として臨床現場ではしばしば用いられる手法です。
 食道がんの予後は、手術方法、術前後の支持療法、化学療法、放射線療法の進歩により、かなり予後が改善されたのですが、まだ半数が何とか5年以上生き残れる状況です。ある外科医が新しい手術方法を開発しました。この手術方法が、合併症を増やすことなく、患者予後を改善できたかどうか検証してみたいと思います。

A卵巣癌ビタミンD遺伝子多型と予後
 ビタミンD遺伝子多型と予後について調査したところ興味深い結果を得ました。STATAで検証してみましょう。
【6】Cohort study 2010年06月18日
19:00〜21:00
@患者さんの状態によって、投薬したり休薬したり、あるいは薬用量を調整したりすることがあります。すなわち、Exposure の因子が変化する場合には、どのように解析したらよいのでしょうか?このような場合、Exposure の程度に応じてperson-time を利用して解析します。最初にNSAIDs服用と胃腸障害による入院との関係をみてみましょう。

A診断学に関する研究(講義+演習)
 まずダウン症スクリーニング、虫垂炎の診断を例にとり、ベイズ理論を簡単に説明します。そして、拡大内視鏡所見だけで腸上皮過成(病理組織診断)をどの程度診断できるかをみてみましょう。
 新しい検査方法が確立され、その有用性をみる場合、sensitivity, specificity, positive predictive value, negative predictive value をみて、ROCカーブを描き、AUCを求めます。
【7】Case-control study 2010年6月25日
19:00〜21:00
@乳児突然死症候群
 最初に乳児突然死症候群(SIDS)の発生が妊娠中の因子と関係ないかどうか検討してみましょう。データは、1人の患者さんに対して1人の同年齢正常乳児を母親の年齢でマッチングしてあります。例えば母親が14歳であれば、乳児突然死症候群(SIDS)でない正常体重児を出産した14歳の母親をコントロールとして1人選びました。このようなマッチングデータはconditional logistic regression で解析します。最初の何例かを示すと以下のようになります。検討する因子として母親の喫煙、うつぶせ寝の有無、上気道感染の有無、保温過剰、出生時体重を選択しました。

A飲酒と乳癌
 臨床研究においては、再発の有無、病気発症の有無、反応性の有無など結果を0or1で示すことが多い。このような場合、「ロジスティック解析」がしばしば用いられます。原理について簡単に説明したあと、実際の臨床データに触れていただきます。
 あなたは乳癌2,107人、コントロール2,020人、合計4,127のデータの解析を依頼されました。人数が多いので、諸々の因子についても同時に解析できそうです。しかも、飲酒と乳癌の関係については白黒はっきりしておらず、これが明確になれば大きなインパクトがあることは間違いありません。早速、「ロジスティック解析」を用いて飲酒と乳癌の関連について調査してみましょう。

B癌家系と胃癌
 胃癌は西欧と比較して比較的多い癌種です。また家系内の集積もしばしばみられます。しかし例えば両親のどちらかが胃癌であった場合のリスクは?両親共に胃癌だったときでは?など知りたいところです。1,400人の胃癌家系のデータと、13,467人の年齢、性をマッチさせたコントロール家系データを用意しました。STATAを使って上記リスクを算出してみたいと思います。
【8】Propensity score, Molecular epidemiology 2010年7月2日
19:00〜21:00
@プロペンシティ・スコアを用いた解析
 ランダム化比較試験は、交絡を除去できる最も有効な手立てです。ところが、一端市場にでてしまった後では、今更その薬剤あるいは治療法についてランダム化比較することは極めて困難です。
 そこで、1990年代後半頃から、最初にある治療が選択される確率をプロペンシティ・スコアとして計算し、次にこのスコアによりマッチングさせて比較する手法が考案されました。マッチングはcase-control study に用いられてきましたが、このプロペンシティ・スコアとはcohort study のマッチング手法と言えるかもしれません。
 セミナーの最後の演題として、このpropensity scoreの適応と具体的方法に関して帝王切開を例に提示したいと思います。また最近のトレンドについても紹介します。

A分子疫学的解析
 糖尿病の3大合併症は網膜症・腎症・神経障害です。腎症の無い糖尿病患者202人(うち網膜症のある患者129人)、透析患者497人(うち糖尿病患者140人)でビタミンD受容体およびビタミンDキャリア蛋白の遺伝子多型を調べました。多型やハプロタイプと合併症、あるいは予後との関係を、STATAならびにHaploview というソフトを使いながら解析します。
【9】Epidemiology of Infectious Diseases 2010年7月9日
19:00〜21:00
@感染症疫学
 R0: reproductive number など、感染症数理モデルの基礎を解説。

ASARS
 2003年SARSパンデミックの際、何があったかを振り返ります。実際香港でSARSの診断を受けた1,222人のデータをEXCELを使って図にします。図にすることによって何かがみえてくるはずです。今回は、統計解析よりも感染症疫学においては、エピデミックカーブを描くことの重要性について実感してもらいたいと思います。

Bスペイン風邪流行時のアメリカ各都市対応と死亡率の関係
 2007年アメリカ医師会雑誌に掲載された内容を解説します。迅速かつ的確な対応ととった都市では、そうでなかった都市と比較して明らかにスペイン風邪流行中の過剰死亡率が低く抑えられていました。
 ということは、患者治療やワクチン、タミフルなどの医療介入も然ることながら、感染症流行を早期に認知し、隔離、検疫、集会自粛、学校閉鎖などの政治介入を的確に行うことによって多くの命を救えることを示唆しています。

C豚インフルエンザ:学校閉鎖等の介入のタイミングを探る
 Barkley Madonnaというソフトを使って感染症の数理モデルのデモを行います。特に、流行初期における学校閉鎖等の措置の効果を予測する上で有用です。
【10】 2010年7月16日
19:00〜21:00
@メタ解析
 STATAを使ってメタ解析をしてみましょう。

A不確実な情報の中での意思決定
 最初は崇高な目的でプロジェクトを立ち上げたとしても、経済的プレッシャーなどから徐々に目指すものがずれてしまうことがあります。ベンチャー企業が最初に販売する薬物では、患者さんにとって有益であるか、思わぬ副作用がでていないか、常に自問自答しながら慎重にことをすすめることでしょう。しかし、古い製薬会社であれば、過去の経験から、新規開発した薬剤が市場に出回り一定以上の収益を得るのは当たり前といった流れができあがっているかもしれません。ましてや、全体の経営が思わしくないとき、副作用のシグナルがあっても、これを無視して突き進んでしまうことだってあるでしょう。アカデミアであれば、学会発表や論文作成が臨床研究のゴールとなりがちです。
 最終回は「データを読む」と題して、ワークショップを行います。皆さんにはあるレーシングチームのオーナーになっていただき、レースに出場するか否かの意思決定をしてもらいます。そして、“私たちは何のために臨床研究を行うのか?”という原点に戻ったところで、本コースを終了させたいと思います。