分子疫学研究室

過去のセミナー

【平成20年度】疫学解析コース(3回)

目的
臨床研究のデータを即解析できる人材を育成する
日時
“終了しました” 2008年9月より開始
場所
東京慈恵会医科大学 大学1号館 4階講堂
費用
12,000円
(大学生・大学院生は6,000円)
(慈恵医学部学生および大学院生は無料)
講師
浦島 充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)
対象
医療関係者、CRO、 製薬会社、医学・薬学系大学院生など
方法
臨床データを用い、統計ソフト(STATA)を駆使しながら図表を作成し、その意味を考える
説明
申込み方法 → オンラインより、お申し込み下さい

詳細

1. 2008年09月12日
19:00〜21:00
@ STATAの使い方
 備え付けのコンピュータを起動し、STATA(統計ソフト)の使い方からはじめます。

A ロジスティック解析、多変量解析
 臨床研究においては、再発の有無、病気発症の有無、反応性の有無など結果を0 or 1 で示すことが多い。このような場合、『ロジスティック解析』がしばしば用いられます。原理について簡単に説明したあと、実際の臨床データに触れていただきます。
 あなたは乳癌2,107人、コントロール2,020人、合計4,127人のデータの解析を依頼されました。人数が多いので、諸々の因子についても同時に解析できそうです。しかも、飲酒と乳癌の関係については白黒はっきりしておらず、これが明確になれば大きなインパクトがあることは間違いありません。早速、『ロジスティック解析』を用いて飲酒と乳癌の関連について調査してみましょう。
2. 2008年09月19日
19:00〜21:00
@ マッチングデータを用いた解析
 最初に乳児突然死症候群(SIDS)の発生が妊娠中の因子と関係ないかどうか検討してみましょう。データは、1人の患者さんに対して1人の同年齢正常乳児を母親の年齢でマッチングしてあります。
 例えば母親が14歳であれば、乳児突然死症候群(SIDS)でない正常体重児を出産した14歳の母親をコントロールとして1人選びました。このようなマッチングデータは『コンディショナル・ロジスティック解析』で解析します。最初の何例かを示すと以下のようになります。
 検討する因子として母親の喫煙、うつぶせ寝の有無、上気道感染の有無、保温過剰、出生時体重を選択しました。

A 生存解析
 食道がんの予後は、手術方法・術前後の支持療法・化学療法・放射線療法の進歩により、かなり予後が改善されたのですが、まだ半数が何とか5年以上生き残れる状況です。
 ある外科医が新しい手術方法を開発しました。この手術方法が、合併症を増やすことなく、患者予後を改善できたかどうか検証してみたいと思います。
3. 2008年09月26日
19:00〜21:00
@ 人年法を用いたポアソン・モデル
 患者さんの状態によって、投薬したり休薬したり、あるいは薬用量を調整したりすることがあります。すなわち、暴露の因子が変化する場合には、どのように解析したらよいのでしょうか?このような場合、暴露の程度に応じて『人年法』を利用して解析します。

A ワーファリンによる心臓弁置換手術後管理
 リウマチ罹患後10年以上を経て心臓弁に変形をきたすことがあります。この変形に対して、人工弁で置換すると、心不全の進行を停止させ、もとに戻すことができます。
 J医大の循環器グループは、このようなケース550人を10年以上に渡って外来フォローしました。その際、置換した弁が人工物であるが故に、血栓を作りやすい。この血栓は脳血管をはじめ様々な所にとんで、虚血性臓器障害を来たす可能性があります。これに対して、ワーファリンを用いることにより血栓形成を抑制することができます。しかし、ワーファリンが効きすぎるとかえって出血傾向を助長し、脳出血などを来たしかねません。
 そこで、INR という国際標準化されたプロトロンビン時間を用いて、薬の量を外来医師が加減することになります。しかし、INRはワーファリンの量だけでなく、患者の食事など、様々なものに影響を受けます。また、出血も梗塞もしにくい適切なINR がいくつくらいなのかに関するエビデンスも研究者によってまちまちであり、特に日本国内のエビデンスは不十分です。
 そこで、今回、日本人を対象に弁置換術後の適正なINRをいくつに設定するべきかに回答することが、我々に与えられた課題です。

B プロペンシティ・スコアを用いた解析
 ランダム化比較試験は、交絡を除去できる最も有効な手立てです。ところが、一端市場にでてしまった後では、今更その薬剤あるいは治療法についてランダム化比較することは極めて困難です。
 そこで、1990年代後半頃から、最初にある治療が選択される確率を『プロペンシティ・スコア』として計算し、次にこのスコアによりマッチングさせて比較する手法が考案されました。マッチングはケース・コントロール研究に用いられてきましたが、この『プロペンシティ・スコア』とはコホート研究のマッチング手法と言えるかもしれません。
 セミナーの最後の演題として、この『プロペンシティ・スコア』の適応と具体的方法に関して帝王切開を例に提示したいと思います。