分子疫学研究室

過去のセミナー

【平成19年度】疫学解析コース(5回)

目的
臨床研究のデータを即解析できる人材を育成する
日時
終了しました
場所
東京慈恵会医科大学 大学1号館 4階講堂
費用
15,000円(大学生・大学院生は7,500円)
講師
浦島 充佳(東京慈恵会医科大学 臨床研究開発室)
方法
既に英語論文として発表された基データを用い、統計ソフト(STATA)を駆使しながら、論文の図表を再現する、あるいは新たな知見を加える

詳細

1. 2007年09月21日
19:00〜21:00
@ STATAの使い方
 備え付けのコンピュータを起動し、STATA(統計ソフト)の使い方からはじめます。

A メタボリック症候群
 22,892人分の健康診断の結果をEXCEL およびSTATA上に示しました。そのうち、メタボリック症候群は2,441人、約10%います。このメタボリック症候群は、冠動脈疾患や脳卒中になりやすい成人病ハイリスク群として注目されています。EXCEL fileには様々な検査値だけではなく、生活習慣などのデータも変数もあります。
 サンプルの分布、t-testなど簡易な検定からはじめ、メタボリック症候群になり易い生活習慣について検討を加えていきましょう。
2. 2007年09月28日
19:00〜21:00
@ ロジスティック解析、多変量解析
 臨床研究においては、再発の有無、病気発症の有無、反応性の有無など結果を0 or 1 で示すことが多い。このような場合、ロジスティック解析がしばしば用いられます。原理について簡単に説明したあと、実際の臨床データに触れていただきます。

A コホート研究:内視鏡的胃ろう造設術(PEG)
 経口摂取できない患者さんに対して、近年PEGが用いられるようになりました。胃ろうから経腸栄養剤を補充するためです。栄養状態を高く維持することによって、患者のQOLは高く保たれるし、在宅医療に切り替えることもできるため、近年急速に普及しつつあります。しかし、PEGにも問題がないわけではありません。1つは胃ろう部付近の感染であり、もう1つは誤挿入です。外科のYS先生は、前者に対して、内視鏡で胃ろうチューブを経口的に挿入する際、チューブにカバーをかぶせて、胃内に入ったときにカバーをはがすようにしました。このことにより、経口的に挿入する際に細菌がチューブに付着するのを防げると考えたからです。
 今回は胃ろうを造説した449人のデータであり、チューブにカバーしたもの(covered == 1), カバーしていないもの(covered == 0) のデータがそれぞれ、243人、206人ずつ入っています。カバーすることにより、感染を防いでいるかを検証して欲しい。ロジスティック解析を勉強します。

Suzuki Y, Urashima M, Ishibashi Y, Abo M, Mashiko H, Eda Y, Kusakabe T, Kawasaki N, Yanaga K. Covering the percutaneous endoscopic gastrostomy (PEG) tube prevents peristomal infection.World J Surg. 2006 Aug;30(8):1450-8.
3. 2007年10月05日
19:00〜21:00

 ケース・コントロール研究の概要を説明します。

A 乳児突然死症候群
 最初に乳児突然死症候群(SIDS)の発生が妊娠中の因子と関係ないかどうか検討してみましょう。データは、1人の患者さんに対して1人の同年齢正常乳児を母親の年齢でマッチングしてあります。例えば母親が14歳であれば、乳児突然死症候群(SIDS)でない正常体重児を出産した14歳の母親をコントロールとして1人選びました。このようなマッチングデータはconditional logistic regression で解析します。最初の何例かを示すと以下のようになります。検討する因子として母親の喫煙、うつぶせ寝の有無、上気道感染の有無、保温過剰、出生時体重を選択しました

B 胃がんの家族歴
 1400人の胃がん患者さん:ケースに対して、胃がんの患者さんを除いた健康診断受診者のデータから年齢と性別をマッチさせて1:10 でコントロールを抽出しました。そして、家族内にどの程度がん患者あるいは、胃がん患者がいるか検討しました。そして、家族内に胃がん患者がいたとき、どれくらいのリスクがあるかを検討してもらいます。

Eto K, Ohyama S, Yamaguchi T, Wada T, Suzuki Y, Mitsumori N, Kashiwagi H, Anazawa S, Yanaga K, Urashima M. Familial clustering in subgroups of gastric cancer stratified by histology, age group and location. Eur J Surg Oncol. 2006 Sep;32(7):743-8.
4. 2007年10月12日
19:00〜21:00
@ 生存解析
 生存解析の原理について解説します。

A 食道がん生存解析
 食道がんの予後は、手術方法、術前後の支持療法、化学療法、放射線療法の進歩により、かなり予後が改善されたのですが、まだ半数が何とか5年以上生き残れる状況です。そこで、我々は早期に再発死亡する食道がんと生存する食道がんで何が違うのかを見極め、それをヒントに新しい治療法を開発することを考えています。今回は、食道がん病理組織においてUbcH10 というユビキチン関連の酵素が免疫染色で染まっているかどうかで、予後を予測できないか検討します。
5. 2007年10月19日
19:00〜21:00
@ Person time を用いたPoisson regression model

 患者さんの状態によって、投薬したり休薬したり、あるいは薬用量を調整したりすることがあります。すなわち、Exposure の因子が変化する場合には、どのように解析したらよいのでしょうか?このような場合、Exposure の程度に応じてperson-time を利用して解析します。

A ワーファリンによる心臓弁置換手術後管理
 リウマチ罹患後10年以上を経て心臓弁に変形をきたすことがあります。この変形に対して、人工弁で置換すると、心不全の進行を停止させ、もとに戻すことができます。J医大の循環器グループは、このようなケース550人を10年以上に渡って外来フォローしました。その際、置換した弁が人工物であるが故に、血栓を作りやすい。この血栓は脳血管をはじめ様々なところにとんで、虚血性臓器障害を来たす可能性があります。これに対して、ワーファリンを用いることにより血栓形成を抑制することができます。しかし、ワーファリンが効きすぎるとかえって出血傾向を助長し、脳出血などを来たしかねない。そこで、INR という国際標準化されたprothrombin time を用いて、薬の量を外来医師が加減することになります。しかし、INRはワーファリンの量だけでなく、患者の食事など、様々なものに影響を受けます。また、出血も梗塞もしにくい適切なINR がいくつくらいなのかに関するエビデンスも研究者によってまちまちであり、特に日本国内のエビデンスは不十分です。そこで、今回、日本人を対象に弁置換術後の適正なINRをいくつに設定するべきかに回答することが、我々に与えられた課題です。