分子疫学研究室

過去のセミナー

【平成21年度】疫学応用コース(5回)

目的
臨床研究のデータを即解析できる人材を育成する
感染症疫学を理解し、リスクコミュニケーションできる人材を育成する
日時
2009年6月〜7月【終了しました】
場所
東京慈恵会医科大学
http://www.jikei.ac.jp/univ/access.html
大学1号館 4階講堂
http://www.jikei.ac.jp/univ/access_s.html
費用
20,000円
(大学生・大学院生は10,000円)
(慈恵医大医学部学生・大学院生は無料)
講師
浦島 充佳
(東京慈恵会医科大学 分子疫学研究室/[旧 臨床研究開発室])
対象
医療関係者、CRO、 製薬会社、医学・薬学系大学院生、保健所職員、自治体危機管理関係者
方法
臨床データを用い、統計ソフト(STATA)を駆使しながら図表を作成し、その意味を考える
説明
使用統計ソフト: STATA http://www.stata.com/
Single user in education:$740
Single user in corporation:$1,550
Single user in government:$1,550
※講堂備え付けのラップトップPCにはSTATAが導入されていますので、購入する必要はありません。しかし、講義を受講しただけですと、やがてSTATAの使い方を忘れてしまいます。そのため、少々値段がはりますが、My STATAを購入されることをお薦めします。この講義で触れる機能はSTATAの極一部であり、逆にこれ1つを使いこなせれば大概のことはできます。

【推薦図書】
Principles of Biostatistics, Marcello Pangano, Kimberlee Gauvereau, Duxbury, CA
http://www.amazon.co.jp/Principles-Biostatistics-Marcello-Pagano/dp/0534229026/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=english-books&qid=1238750341&sr=1-1

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詳細

1. 2009年6月19日
19:00〜21:00
@STATAの使い方
 備え付けのコンピュータを起動し、STATA(統計ソフト)の使い方からはじめます。疫学基礎コースでやった内容を復習します。

Aロジスティック解析、多変量解析
 臨床研究においては、再発の有無、病気発症の有無、反応性の有無など結果を0or1で示すことが多い。このような場合、「ロジスティック解析」がしばしば用いられます。原理について簡単に説明したあと、実際の臨床データに触れていただきます。
 あなたは乳癌2,107人、コントロール2,020人、合計4,127のデータの解析を依頼されました。人数が多いので、諸々の因子についても同時に解析できそうです。しかも、飲酒と乳癌の関係については白黒はっきりしておらず、これが明確になれば大きなインパクトがあることは間違いありません。早速、「ロジスティック解析」を用いて飲酒と乳癌の関連について調査してみましょう。
2. 2009年6月26日
19:00〜21:00
@診断学に関する研究(講義+演習)
 まずダウン症スクリーニング、虫垂炎の診断を例にとり、ベイズ理論を簡単に説明します。そして、拡大内視鏡所見だけで腸上皮過成(病理組織診断)をどの程度診断できるかをみてみましょう。新しい検査方法が確立され、その有用性をみる場合、sensitivity, specificity, positive predictive value, negative predictive value をみて、ROCカーブを描き、AUCを求めます。

A生存解析(講義+演習)
 食道がんの予後は、手術方法、術前後の支持療法、化学療法、放射線療法の進歩により、かなり予後が改善されたのですが、まだ半数が何とか5年以上生き残れる状況です。ある外科医が新しい手術方法を開発しました。この手術方法が、合併症を増やすことなく、患者予後を改善できたかどうか検証してみたいと思います。
3. 2009年7月3日
19:00〜21:00
@Person time を用いたPoisson regression model(演習)
 患者さんの状態によって、投薬したり休薬したり、あるいは薬用量を調整したりすることがあります。すなわち、Exposure の因子が変化する場合には、どのように解析したらよいのでしょうか?このような場合、Exposure の程度に応じてperson-time を利用して解析します。最初にNSAIDs服用と胃腸障害による入院との関係をみてみましょう。

Aワーファリンによる心臓弁置換手術後管理(演習)
 リウマチ罹患後10年以上を経て心臓弁に変形をきたすことがあります。この変形に対して、人工弁で置換すると、心不全の進行を停止させ、もとに戻すことができます。J医大の循環器グループは、このようなケース550人を10年以上に渡って外来フォローしました。その際、置換した弁が人工物であるが故に、血栓を作りやすい。この血栓は脳血管をはじめ様々なところにとんで、虚血性臓器障害を来たす可能性があります。これに対して、ワーファリンを用いることにより血栓形成を抑制することができます。しかし、ワーファリンが効きすぎるとかえって出血傾向を助長し、脳出血などを来たしかねません。そこで、INRという国際標準化されたprothrombin time を用いて、薬の量を外来医師が加減することになります。しかし、INRはワーファリンの量だけでなく、患者の食事など、様々なものに影響を受けます。また、出血も梗塞もしにくい適切なINR がいくつくらいなのかに関するエビデンスも研究者によってまちまちであり、特に日本国内のエビデンスは不十分です。そこで、今回、日本人を対象に弁置換術後の適正なINRをいくつに設定するべきかに回答することが、我々に与えられた課題です。

Bプロペンシティ・スコアを用いた解析(講義)
 ランダム化比較試験は、交絡を除去できる最も有効な手立てです。ところが、一端市場にでてしまった後では、今更その薬剤あるいは治療法についてランダム化比較することは極めて困難です。そこで、1990年代後半頃から、最初にある治療が選択される確率をプロペンシティ・スコアとして計算し、次にこのスコアによりマッチングさせて比較する手法が考案されました。マッチングはcase-control study に用いられてきましたが、このプロペンシティ・スコアとはcohort study のマッチング手法と言えるかもしれません。セミナーの最後の演題として、このpropensity scoreの適応と具体的方法に関して帝王切開を例に提示したいと思います。
4. 2009年7月10日
19:00〜21:00
@感染症疫学 I
 R0: reproductive number など、感染症数理モデルの基礎を解説。

ASARS
 2003年SARSパンデミックの際、何があったかを振り返ります。実際香港でSARSの診断を受けた1,122人のデータをECXELを使って図にします。図にすることによって何かがみえてくるはずです。今回は、統計解析よりも感染症疫学においては、エピデミックカーブを描くことの重要性について実感してもらいたいと思います。

Bリスク・コミュニケーション
 私ども医療に携わるものは、常に患者さんと向き合い、リスクについて説明しなくてはなりません。医療者からみたリスク・コミュニケーションからスタートし、マスパニックについて考えます。両者に共通して、不確実性、誠実、信頼といったあたりがキーワードになるのではないでしょうか?

Cポトラック・パーティ(演習+ワークショップ)
 備え付けのコンピュータを起動し、STATA(統計ソフト)の使い方からはじめます。そして、EXCEL資料をもとにどの食品が集団食中毒の原因であるのか、どのような菌が原因であるのかグループで討論し、代表者に「何が起こっているのか?」について発表してもらいます。
5. 2009年7月17日
19:00〜21:00
@スペイン風邪流行時のアメリカ各都市対応と死亡率の関係
 2007年アメリカ医師会雑誌に掲載された内容を解説します。迅速かつ的確な対応ととった都市では、そうでなかった都市と比較して明らかにスペイン風邪流行中の過剰死亡率が低く抑えられていました。ということは、患者治療やワクチン、タミフルなどの医療介入も然ることながら、感染症流行を早期に認知し、隔離、検疫、集会自粛、学校閉鎖などの政治介入を的確に行うことによって多くの命を救えることを示唆しています。

◇1918年スペイン風邪モデル
 EXCELあるいはBerkeley Madonnaというモデリングソフトを用いて、実データより感染症流行曲線を描き、さらにR0などの基本的なパラメータを算定できます。資料として、ソフトの購入方法からどのようなコマンドでこのEXCELデータを解析できるかを細かく解説した資料を提供します(授業では触れません)。

◇アメリカ南部地域に多発した脳炎(自習用)
 解説は行いません。

Aデータを読む(ワークショップ)
 最初は崇高な目的でプロジェクトを立ち上げたとしても、経済的プレッシャーなどから徐々に目指すものがずれてしまうことがあります。ベンチャー企業が最初に販売する薬物では、患者さんにとって有益であるか、思わぬ副作用がでていないか、常に自問自答しながら慎重にことをすすめることでしょう。しかし、古い製薬会社であれば、過去の経験から、新規開発した薬剤が市場に出回り一定以上の収益を得るのは当たり前といった流れができあがっているかもしれません。ましてや、全体の経営が思わしくないとき、副作用のシグナルがあっても、これを無視して突き進んでしまうことだってあるでしょう。アカデミアであれば、学会発表や論文作成が臨床研究のゴールとなりがちです。
 最終回は「データを読む」と題して、ワークショップを行います。皆さんにはあるレーシングチームのオーナーになっていただき、レースに出場するか否かの意思決定をしてもらいます。そして、“私たちは何のために臨床研究を行うのか?”という原点に戻ったところで、本コースを終了させたいと思います。